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2011年11月 8日 (火)

ゼロの焦点

iTunes Storeの邦画の作品を眺めていたら「ゼロの焦点」を見つけた。一昨年、松本清張生誕100周年を記念して東宝で映画化されたが、こちらは1961年の松竹映画で、監督は1974年の「砂の器」も指揮した野村芳太郎さんだ。私は2009年の東宝作品は観ていないが、小説が松竹作品より僅かに前に発表されているので、ほぼ同時期の映像化とみていいだろう。

映画から伝わってくるリアリティは相当なもので、金沢行きの列車が蒸気機関車であり、能登の寒村を走るバスがボンネットバスであったりと、これらの車両に執着心のあるマニアであれば、それだけでも観る価値はあるのではないだろうか。

作品のキャストを眺めても心躍るものがあり、まさにオールスターによる競演が実現している。脚本は「羅生門」「七人の侍」などの黒沢作品の脚本家として有名な橋本忍、そして「男はつらいよ」の山田洋次。音楽は芥川也寸志。ちなみに俳優陣は以下のごとく。まさに豪華絢爛という言葉がぴたりと当てはまる。

鵜原禎子:久我美子
室田佐知子:高千穂ひづる
田沼久子:有馬稲子
鵜原憲一:南原宏治
鵜原宗太郎:西村晃
室田儀作:加藤嘉
本多良雄:穂積隆信

学生時代、私も金沢には行ったことがある。友人等と夏休みに一台の車に便乗し、上高地、飛騨高山、富山、金沢、能登半島と巡ったのだ。8月の暑い盛りであったので、映画のような疾風吹き荒れる冬の日本海のイメージとはほど遠く、恋路海岸は海水浴客で賑わい、また作品の舞台の一つとなる羽咋で宿をとったのが思い出深い。輪島の朝市も訪れた。

ストーリーは小説の内容をほぼ踏襲しているが、エンディングにかなり修正が施されており、鵜原禎子と室田佐知子、すなわち被害者と加害者が「ヤセの断崖」で対峙するという場面が用意されている。原作では事件の真相を突き止められ、自殺に走るであろう室田佐知子を止めるために、鵜原禎子が室田佐知子の後を追うのであるが、時既に遅く、荒れる日本海に小舟で向かい身を投じる室田佐知子の姿が描写され、物語は完結する。

松本清張の作品の根底に流れているもの、それは世のなかに忘れ去られたように潜む弱者への心配りと深い洞察力にあると思う。「或る小倉日記伝」において、障害をもつ主人公と、その息子を温かく見守る母親の愛に心打たれるし、本作においても、戦後の混乱期における不遇を乗り越えて、逞しく生きようとする女たちのすがたに、気遣いを向ける作者の愛情が感じられる。この映画は紛れもなく佳作である。


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